医療法人 松田会

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昆虫皮膚炎

 実は昆虫が原因で起こる皮膚炎は沢山あり、それが原因で松田病院皮膚科を受診する患者さんも少なくありません。皮膚科学会には、文字通り昆虫博士と呼ばれる夏秋優先生がいて、その先生の講演はどの学会でもいつも満席です。私も、その先生の講演や著書から多くのことを学びました。以下の内容もその多くはその先生の受け売りです。
 さて、虫刺されによる皮疹はどの昆虫によるものもよく似ていて、数ミリから1cm以下の痒みの強い赤い盛り上がったブツブツで、小学生以上の方でしたら誰でも、虫さされとわかる見慣れたものです(正式には痒疹といいますが、ここでは虫さされ発疹と呼びます)ちなみに、虫刺され発疹から刺した虫を同定することはできません。患者さんが刺した虫を見ていないときは、幾つかの状況証拠から推測します。よくあるものから順番に説明します。

毒蛾皮膚炎

 チャドクガというツバキ、サザンカ、お茶などの樹木に生息する蛾の幼虫や成虫が持っている毒針毛により生じる皮膚炎です。一度に多数の毒針毛に刺されるので虫さされ発疹が腕、脚、胸など比較的狭い範囲に多発します。庭仕事などをした後に発症します。




トコジラミ

 同じく複数の虫刺され発疹が比較的狭い範囲に多発します。これは一匹のトコジラミが刺し口を変えて吸血するためです。よく虫さされ発疹が2個並んでいるとダニに刺されているといわれますが、これもダニが刺し口を変えて吸血するからです。
 トコジラミは、壁や柱の割れ目、床の隙間、畳の縁、ベッド周辺、家具の隙間など部屋の隙間に潜んでいます。昼間はじっとしていて夜になると隙間から這い出てきて吸血します。したがって発疹はパジャマから露出しているところに多い傾向があります。人が活動している時には隠れているのでなかなか見つけることができませんが、学会で聞いた話では、夜に電気を消して布団の中で30分程度寝たふりをし、突然電気をつけて探すと見つけられるとのことで「うそ寝作戦」と呼んでいました。トコジラミは5ミリ程度の大きさなので、老眼でなければ目で見えます。

イエダニ、鳥刺しダニ

 それ以外にも、ネズミに寄生しているダニや鳥に寄生しているダニが、ネズミが死んだ時や鳥が巣立って行った時など、宿主がいなくなって人を吸血します。ただ最近はネズミがいる家庭は、昔と違って少なくなっているせいか、イエダニに刺されてくる患者さんは松田病院では経験していません。鳥刺しダニは、印象に残った症例(15頁)に書いたようにマンションのベランダに巣を作った野鳥による症例を経験しました。

カ、ブヨ、アブ

 カに刺されて皮膚科を受診する患者さんは少ないですが、時にキャンプなどで何ヶ所も刺されて痒くて仕方なくて受診する患者さんがいます。ブヨは刺されるとカよりも痒みが強く、刺された部位に数日から数週間痒みの強い皮疹が残ることがあり受診されます。ブヨは高原、山間部、渓流沿いでよく刺されます。アブはカやブヨと違い、刺された時に痛みがあるのが特徴です。また虫の大きさも10ミリから25ミリとブヨよりもかなり大きいです。高原、渓流沿いなど屋外で刺されます。

ネコノミ

 ネコに寄生しますが、成虫は庭、公園など野良ネコの生息しているところにいます。地面から約30cmジャンプするので主に下腿に虫さされ発疹が生じます。
 虫さされの治療は、どの虫さされもほぼ同じ治療を行ないます。通常はステロイド軟膏と抗ヒスタミン薬を処方します。症状がひどい時にはステロイドの内服薬を処方します。またそこから細菌が入ってしまった場合は抗生剤を処方します。同じ虫が原因の皮膚病でも、疥癬とニキビダニ症はこれまで話してきた昆虫皮膚炎とは全く異なった症状を示します。その違いの理由は、疥癬とニキビダニ症の原因となる疥癬虫とニキビダニは人の皮膚に寄生するという点にあります。人の皮膚で育つのです。

疥癬

 疥癬は老人介護施設利用者さんや入院患者さんが発症します。そしてしばしば施設内や院内で患者さんから患者さんへ、次に患者さんから介護職員、リハビリ職員、看護師などへ、さらに発見が遅れるとその家族へ広がります。症状は、夜間に激しい痒みを伴なった全身に多発する小型の虫刺され発疹です。特に、他の昆虫皮膚炎では発疹があまり出ることのない指の間の水かき部分、手のひら、陰嚢などに皮疹が生じるのが疥癬の特徴です。これまでは、皮膚科では患者さんの虫刺され発疹の皮膚を何ヶ所か少しつまみ取って、顕微鏡で観察し疥癬虫を見つけていました。
 今でもこの方法は行なわれますが、なかなか見つからないことがあります。しかし、最近ダーモスコープという皮膚科医が用いる照明装置付きの特別な拡大鏡を高倍率にして用いると、皮膚にいる疥癬虫を肉眼で見つけることができるようになりました。そのお陰で疥癬虫の見落としが減りました。疥癬虫が見つかれば有効な内服薬や外用薬があり、それで治療できます。またその際には、着ていた下着などの衣服の洗い方も指導します。

ニキビダニ

 ニキビダニは、主に顔の毛穴や睫毛などに寄生するといわれ、誰にでも寄生しているといわれています。でも通常見つかるのは、酒さやステロイド軟膏長期使用者などに限られています。
 こちらもダーモスコープでニキビダニの尻尾を観察できると教科書には書かれています。私もそれらしいのを何度か見ていますが、まだ顕微鏡で観察しないと自信をもってニキビダニがいるとは断言できません。これで起こる毛包虫症には、酒さに非常に症状がよく似ているものと、淡い赤い斑点が顔に出現し毛包虫を殺す薬で意外と簡単に治る症例があります。

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